朝9時。我々は首都高で渋滞に捕まっていた。福島でデビューを迎える愛馬 シルクシリウスの応援部隊である。肝心のレースは日曜なので、 この日は天栄の調教施設でトレーニングに励んでいる他の愛馬たちを見学した後、 どこかの温泉宿でのんびりしようという趣向。
車はじりじりとしか進まない。午後2時からの見学なのに こんな調子で間に合うんだろうか、と心配したが、 やがて流れが良くなり東北道へ突入。それでも車の密度は高いし、 パーキングエリアの駐車場はどこも一杯で入れず、 栃木佐野までトイレを我慢しなければならなかった。 紅葉シーズンだし、みんな日光にでも行くのかな。
宇都宮を過ぎるとだいぶ車も少なくなり、すいすい走って郡山手前の 矢吹インターで下りる。それから少し一般道を進んで 天栄まであと数キロのところまで来た。着いてみれば12時前で、 かなり時間に余裕がある。
そこでまずは昼食、ということで目についた古い民家風の手打ちそば屋 『古宿』へ入ることにし、車を降りたとたん…寒い! 店の中ではいろりの近くの席を陣取るが、それでも寒い。 東京と同じつもりで服を準備してきたがとんでもない。 この先、旅を通じてずっと寒さに苦しめられることになった。
昼食を終えると、レジ前で売っていたそばせんべいなど買いつつ、車に戻る。 今夜の宿を探さなければならない。福島市街から近い土湯温泉を中心に、 ガイドブックに載っている旅館に片っ端から電話を入れるが、 どこも満室で断られまくる。いいかげん戦意喪失しかけたとき、 ようやく奥土湯の『不動湯温泉』なる旅館にキャンセル空きを見つけてすかさず予約。 このときはそれがとんでもない山奥にあるとは知る由もないユメケイバーズであった。
それからコンビニに寄ったりしながらのんびりと天栄ホースパークを目指すと、 新幹線の見える丘の上にそれはあった。まだあちこちが造成中で、 工事車両がいっぱい入っていた。 建ち並ぶ厩舎から馬が首を伸ばしてこちらを眺めている。
天栄HP・厩舎事務所をたずねると、準備ができるまで応接室で待つようにとのこと。 応接室には無料の自販機があり、さらに豪華なソファーでくつろぎながら グリーンチャンネルを見ることができるようになっていた。ううむ、 すばらしい、と感動しているうちに案内役のお兄さんがやって来た。 我々は、シルク会員と思しきもう一人の男性と一緒に、 お兄さんに引率されて厩舎へ向かった。
厩舎前で最初に引き出されてきたのは、 つい一ヶ月半前に北海道で見てきたばかりのシルク98-32であった。 入厩に向けて仕上げを進めるためにここへ移ってきたのだ。 元気があり余っている様子を遠巻きに眺めていると、「触っても大丈夫ですよ」 とお兄さん。えっ、いいんですかぁ。お言葉に甘えてさっそく首筋をなででやる。 おかげで所有馬だという実感がますます湧いてきた。
シルク98-32続いてシルクショットガン。春の府中戦を最後に放牧に出されて以来、 状態が良化してこないらしく、なかなか帰厩できずにいる。 見た感じはそんなに悪そうな印象はなかったが。まあすでに1勝しているし、 焦らずじっくり立て直してもらいましょう。まともなら500万下でも通用するはずだ。
シルクショットガンそれからシルク98-10が出てきた。 この栗毛のダンスインザダーク牝駒と対面するのは初めてだった。 充血したちょっと怖い眼でこちらをにらみつけている。 先入観があるせいなんだろうが、いかにも牝馬らしい顔だなと思った。 昨年北海道でシルクシリウスに会ったときもそんな印象だった。
シルク98-10場所を変えて、お次はシルクソード。こいつはうるさい。少しもじっとしていない。 最後には立ち上がってしまったくらい。 お兄さんによると「最近うるさい面が出てきた。 もともとうるさいところのある馬と聞いているので、良化の兆しではないか」 とのこと。ただし、「仕上がるにはまだしばらくかかる」そう。もう4歳なんだけど。
シルクソードこの頃になると、寒さが耐えがたいほどになっていた。風が冷たい。 デジカメを操作する手がかじかんで思うように動かない。しかし見学も あと1頭だ、がんばろう。
最後はシルクスコール。夏頃はかなり悪い状態だったはずなのだが、 今は立ち直ったらしい。お兄さんは笑みを浮かべて、 「調教ではなかなかいい動きをしてますよ」… なんでこいつだけ好意的なコメントが付くんだろう。かなり期待していいのかな。 とりあえず、見せてもらった中では一番早く競馬場に姿を現しそうな雰囲気ではある。
シルクスコールさて見学はこれにて終了。なのだが、 「このあと立ち入り禁止区域以外は自由に回ってもらってかまいません」だって。 そこで我々は再度愛馬を見るべく厩舎の中に入り込んでいったが、 ここにいる馬はシルクばかりではなく、 冠号グラスの馬や冠号ビワの馬(母パシフィカス!)を見つけては、 何だか得した気分になるのであった。
こうして一通り回り終え、天栄ホースパークをあとにした。 さすがに調教風景までは見られなかったが、我々は十二分に満足していた。 シルクさんの太っ腹な会員サービスには毎度感服させられる。
天栄HP・調教コースあとは温泉宿を目指して車を走らせる。土湯温泉まではあっさり来たが、 そこからが大変だった。まず細い道をくねくねと登っていく。 1キロほど行くと、未舗装道路を走る羽目になった。 しかも道幅がどんどん狭くなる。 山中のハイキングコースのような雰囲気になってくる。 ところどころには訪問客を励ますように、「不動湯こちら。あと××キロ」 の看板が立っていた。ある場所には「積雪時はここに車を止めて歩け」 といった内容の看板もあった。
やっとの思いでたどり着いた不動湯温泉は、山の中のひなびた一軒宿だった。 廊下には芸能人のサイン色紙がいっぱいに飾ってある。 2人用の8畳部屋に通されたが、4人で利用しても十分いけるように見えた。 旅館には男性が利用できる浴場は3つあって、どれも3〜4人が限度の大きさ。 そのうちの最も手近な風呂に入ってから夕食とする。山ぶとうの食前酒、 きのこ料理や川魚、デザートは柿。素朴な感じが何とも良い。
食後はこたつで丸くなりながら馬券検討会。我らがシルクシリウスの評価は… どの新聞も無印であった。まあこんなもんでしょう。 今回は無事に走ってくれればいいや。
しばらくして、私と まつまつは再び温泉につかりに行った。 露天風呂が混雑している様子だったので、それは明朝の楽しみにとっておいて、 ひのき風呂に入った。部屋に戻ると、酒盛りしながら馬券検討の続き。 昼に買ったそばせんべいをつまみにするが、これがまたうまい。 思いもよらぬヒット作だ。
そんなこんなで飲んで食べて検討して、12時前には「もう寝ますか」と いうことでみな布団にもぐった。今日は天栄も温泉も予想以上に 楽しませてもらったなあ。明日はシリウスをしっかり応援しなくては…。